ご挨拶 2026年に向けて
2016年、私は初めてフランス・シャモニーを訪れ、UTMBに挑戦しました。モンブランを周遊する壮大なロケーション、心温まる大会スタッフのホスピタリティ、そして何よりもランナーを歓迎してくれるシャモニーの街の雰囲気に、深く感動したことを今でも鮮明に覚えています。 その体験以来、UTMBの素晴らしさが私の心に刻まれ、「いつか日本でもこの感動を届けたい」と願い続けてきました。
そして2025年6月、運命的なご縁によりUTMBと繋がり、自ら日本でのUTMBワールドシリーズを開催するという夢が現実となりました。 開催地に選ばれた石川県加賀市・山中温泉は、1300年以上の歴史を誇る、自然と文化が調和した癒しの地です。シャクナゲやブナの原生林が広がる山岳エリアには、360度の絶景が広がり、まさにトレイルランナーの心を揺さぶる舞台となりました。
記念すべき第1回大会「Kaga Spa Endurance100 by UTMB」には、世界42か国から約800名を含む、総勢約2,500名のランナーが参加してくださいました。皆さまの熱い走りと応援により、加賀の地が一体となった素晴らしい大会となりました。
一方で、エイドステーションの物資やリタイヤ搬送バスの運行など、運営面で至らぬ点があり、参加者の皆さまにご迷惑をおかけしたことも事実です。この経験を真摯に受け止め、来年は運営体制を一層強化し、改善に努めてまいります。 参加者、応援者、地元の皆さま、関係スタッフ、そしてこの大会に関わるすべての方々に、心から満足いただける大会を目指して、全力を尽くします。
2026年、ぜひ「Kaga Spa Endurance100 by UTMB」を皆さまのスケジュールに加えていただければ幸いです。加賀の自然と人の温かさが、皆さまをお待ちしております。
大会会長 滝川 次郎
古代から続く知られざる美しい山々
石川県にある山中温泉は、開湯から1300年の歴史があります。レースの舞台である山中温泉には、富士写ヶ岳、大日山、鞍掛山からなる河南三山と呼ばれる雄大な里山が連なり、360度を見渡せる絶景の稜線トレイル、美しい新緑のブナの原生林を見ながらの急登、健やかに流れる渓流沿いのシングルトラック、木の根っこやガレ場のテクニカルな下り、メンタルに打ち勝つ長い林道、歴史を感じる厳かな散策路等、日本ならではのトレイルコースに、世界各国のランナーたちは感動することでしょう。
開湯から1,300年の歴史を持つ秘湯
スタート、ゴールの地である山中温泉の歴史は古く、約1,300年前に奈良時代の高僧・行基が発見したと伝えられています。行基は丸太に薬師仏を刻んで祠を造り、温泉のお守りとしました。多くの人が山中を訪ね、その湯で病と疲れを癒したとされます。 イベント会場の中心にある総湯は菊の湯と呼ばれ、男湯と女湯が隣同士に建てられています。
奈良時代から時は過ぎて平安末期の治承の頃。能登の地頭・長谷部信連は一羽の白鷺が傷めた足を山陰の小さな流れで癒しているのを見つけます。その場所を掘ると5寸ばかりの薬師如来像が現れ、美しい温泉が湧き出しました。信連はここに12件の湯宿を開き、それが山中温泉旅館の始まりと語り継がれています。
さらに長い時を経た元禄の頃。俳聖・松尾芭蕉が弟子の曾良を伴って日本各地を旅した奥の細道の途中、元禄2年7月27日に山中温泉を訪れています。芭蕉は山中の湯を、有馬・草津と並ぶ「扶桑の三名湯」と讃え、「山中や 菊は手折らじ 湯の匂ひ」の句を読みました。
9日間も山中に逗留した芭蕉は、薬師堂を詣で、温泉につかり、風光明媚な景色を心から楽しんだと言われています。以来300年余の時が流れた今もなお、ここ山中の地にはこんこんと湧く出湯と豊かな自然、日本の美と心が受け継がれているのです。